天気の子

コラボCMが流れまくり、プロモーション費用が相当なことになっていそうだったが、それも前作「君の名は。」の大ヒットを考えれば当然のこと。

新海誠監督待望の新作「天気の子」は相変わらずの画面の美しさ、よりエンタメ性の強いシーン、そしてラストに至る選択に対する議論の余地によって、「君の名は。」とは続編のようでありつつ、観劇後の感じ方はおよそ二つに分かれそうだが、期待通りの面白さだったのではなかろうか。

言ってしまえば前作からの評価や成功といった結果から制作上の影響をしっかり受けて作られたのが本作であり、「君の名は。」からの監督を取り巻く環境の変化からしっかり文脈が繋がっており、それを読み取っていくとなぜこのような物語になったのかは非常にわかりやすいのではないだろうか。

 

画面の美しさ

日経エンタメだったか、川村元気曰く新海監督は「空と雲の描写の美しさ」が武器の一つであるとされていて、それが存分に発揮されている。モチーフが天気であり、劇中は基本曇天のため、それが晴れた時の空の描写にはメリハリが効いてより美しく見えるように感じる。陽菜が「晴れ女」であるため、曇天が晴れて光が街を覆う描写は一つの見せ場であるわけだから、それ以外の時間は曇天にして出し惜しみする演出が効果的。とはいえ、雨の描写も流麗だが。

 

強調されたエンタメ性

君の名は。」よりもさらにエンターテイメントとしての演出が強く見受けられた。K&Aでの場面はコミカルだし、何よりもアクションシーンが多い。警察からの逃亡劇もそうだが、序盤から見られる暴力、偶然手にしてしまう拳銃とそれの使用、カーチェイス。どれも今までの作品には見られなかったものではないだろうか。無論、今まで見られなかった演出だから、戸惑いもした。拳銃を手にして実際に発砲するとは、(新海誠作品にしては)過激ではないかと。それがCUTでの「ヤケクソ」「開き直った」発言と関連しているかは微妙なとこだが。あとは「君の名は。」主要キャストの再登場。明らかなサービスシーンである(お彼岸の説明は必要だったかもしれないが。彼岸=雲上=陽菜の死を表現できるから。そう考えると死ぬ運命にある少女を少年が助けるという構図は「君の名は。」と一致している。)。

 

vs世界

前述の警察からの逃亡然り、主人公が今回は明らかに対立する構図となっている。別に警察に追われる理由は家出によるものだが、脱走したり、発砲したりと公権力への対立を明確に描いている。果ては日本に雨が止まなくなるとしても陽菜と一緒にいることを選択した。世界を相手取って一人の女の子を選択したことは若さの象徴とも取れるし、雨降りになった世界になった後、その選択に後ろめたさも感じる帆高に対する年長者のフォローはその対立を緩和させることを狙っているようだ。インタビューによれば、調和のとれた結末とは離れたものを、とのことだし、たくさんの人に見られるだろうから多くの異なる意見が出る作品にしたいとも述べていた。それこそ前作のヒットがあってこその影響だし、世間の目を意識した作品作りがなされている。とはいえ、前作への悪口とかその辺のネガティブな視線に対する不満とかが十分に原動力になっているみたいだし(CUTのインタビューより)、より監督自身の望む結末になっているとのことである(前作はみんなが望むハッピーエンドであったことと比較するとわかりやすい)。そんだけ色々言われるなら好きなもんにしてやる!という意気込み(本人曰くヤケクソ)を感じられるし、前作からの画面外での文脈が非常に感じられる。

 

田端駅

陽菜の家がまさかの田端駅南口の近く。なぜここがという驚き。田端駅は北口と南口の出口があるが、北口の方はアトレヴィ田端があり、多少の飲食店もあるのだが、南口はと言うと住人しか使うことのない出口となっている。改札は無人で、自動改札2つしかなく、線路をまたいで西側にしか出られない設計になっている。東側に出るには北口から迂回しなければならない。そんな圧倒的に地味な南口が聖地になるとは思っても見なかった。なぜ田端駅南口なのか、という必然性は考えうるものはその地形にあるだろうか。南口は(北口もだが)線路を見下ろす形になっていて高台になっている。終盤東京は水没するわけだが、ラストのシーンでは水没した東京と二人が同時に見える画面構成を意識したはずで、線路よりも高台かつ線路に沿った道がある田端駅南口はその画面作りに適していたということだろうか。考えられるとしたらそれぐらいしかない。あと都心部にしては家賃も山手線沿線駅の中では安いし、中学生と小学生が暮らす街としてそこまで違和感もないかもしれない。とはいえ南口も最近は綺麗なマンションが建ち始めたりしているのでやや寂れた脚色はされているなと思ったが。

 

うろ覚えのあらすじ。

病室から始まる。雲から木漏れ日が覗き、その光が降り注ぐ廃ビルの屋上を目指す少女陽菜。願いながら鳥居をくぐると雲の遥か上にいた。

船に乗っている少年帆高。雨にはしゃいで、船体が傾いて落ちそうになるところを須賀に助けられる。行き先は東京。

東京に降り立地、仕事を探すも見つからない。偶然拳銃を手に入れお守りがわりに持つことになる。マックで寝てると店員の陽菜がハンバーガーを差し入れる。結局、須賀を頼る。一緒に働く夏美を愛人だと思い込む。言うほど本田翼の演技は悪くないと言うか、本田翼はこういう奔放な役は似合っていると思うから、はまっているのではないか。ムーのライター業を住み込みでやり始める。

街中で偶然陽菜を見つける。チンピラに連れ込まれそうになっているところを助け出すが、捕まる。咄嗟に出した拳銃を発砲。抜け出した二人は廃ビルで邂逅を果たす。まだ東京の晴れを見たことがない帆高のために陽菜は晴れを見せる。その後、陽菜の家へ。その能力に感動した帆高は「晴れ女ビジネス」を始める。

「晴れ女ビジネス」は意外と好調で、予約が殺到し、陽菜は晴れになって喜ぶ人たちを見てやりがいを感じるようになる。その流れで瀧も登場する。瀧は随分と落ち着いた振る舞いになっていた。

最後の依頼は須賀の依頼だった。娘のために晴れにしてほしいという依頼に居合わせていた夏美は晴れ女が異常気象を直すための人柱だという噂を陽菜に話す。

誕生日が近い陽菜のためにプレゼントを選ぶ帆高。指輪を買い、彼の質問に応対していたのは三葉だった。

その頃、警察は拳銃所持の疑いに加え、行方不明届の出されている帆高の捜索に乗り出す。須賀の職場を退職した帆高は保護者不在で保護対象となる陽菜と弟凪ともに警察から逃げる。8月だというのに雪が降る異常気象の中、警察に捕まる帆高。それを助けようと陽菜が願うと、雷が付近のトラックに直撃、爆発する。

からがら逃げ果たし泊まるホテルも見つけられた帆高はベッドの上で指輪をプレゼントする。陽菜は「晴れてほしいか」と尋ねる。そりゃあという感じで「うん」と生返事で返す帆高。陽菜は人柱の件を打ち明け、自身の身体が一部透けている様子を帆高に見せる。ずっと一緒ですぐ治ると抱きしめる帆高。

夢を見る。陽菜が雲の上へ消えていく夢。

起きると陽菜の姿がない。凪も同じ夢を見たという。瞬間、警察が押し寄せる。確保され外に出ると数ヶ月ぶりの晴天で、空が光ったかと思うと何かが落ちてくる。拾い上げるとそれは渡したはずの指輪だった。

取調室に入るところで脱走した帆高。それを夏美が拾いカーチェイスを繰り広げる。バイクが走れなくなってもひたすら工事中の山手線線路を走り、代々木の廃ビルを目指す。

廃ビルには須賀が待ち構えていた。大人の目線から帆高を説得しようとするが、抵抗する帆高。捨てたはずの拳銃を帆高は手にし、同時に警察も介入する。結局、大人になりきれない須賀は帆高のアシストをする。同じく保護から脱出した凪の助けを得て、帆高は願いながら必死で鳥居をくぐる(ちなみに凪の取り巻きの子が「綾音」と「かな」だったが、これは声優を務めた「佐倉綾音」と「花澤香菜」から来てるんだろう。花澤香菜は「言の葉の庭」から連続しての新海作品への出演。「あやね」の苗字は「花澤」で、声優二人の苗字を入れ替えた形になっていた。)。

気づくと雲上。真っ逆さまに落ちていき、雲の上で寝ている陽菜は目を覚まし、手を取り一緒に東京上空を自由落下していき、二人は結ばれる。

須賀が空を見上げると曇天が押し寄せ、土砂降りの雨が降り注ぎ始める。鳥居の下には二人が揃って横たわっていた。

3年が経っても雨は止まず、東京は低地がほとんど水没していた。島に戻され保護観察を受けながら高校を卒業した帆高は再び上京し、一人暮らしを始める。須賀の会社は綺麗なオフィスを構えていた。ずっと連絡も取っていなかった彼女に会うため、再び田端駅南口に降り立つ帆高。不動坂の上り坂を見上げると願いの手を合わせる陽菜の姿があった。かつてのように晴れになったりはしない。二人は再び邂逅を果たし、「僕たちはもう大丈夫」と伝え合うのであった。